日本エンドオブライフケア学会第五回学術集会
日時 | 2022年10月1日-2日 |
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場所 | 東京都江東区有明 TFTビル東館 |
発表者 | 宮下淳 |
指定講演:日本版アドバンス・ケア・プランニングの定義と行動指針
抄録:
アドバンス・ケア・プランニング(以下ACP)は、日本の超高齢社会において重要性を増している。しかし、医療・介護現場では医療・ケアチームがACPを実践することに躊躇する場面もみられる。日本では家族中心で意思決定を行う傾向があり、個人の自律的な意思決定が必ずしも容易ではない。にもかかわらず、個人の自律性の高い欧米で開発されたACPの定義が日本の医療現場で使用されており、そのことが日本におけるACP実践が進まない理由の一つと考えられる。このような現状を踏まえ、日本の文化に適したACPとは何かについて、日本の専門家の意見をまとめる必要があると考えた。そこで、私たちは日本の文化を考慮に入れた「日本版アドバンス・ケア・プランニング」の定義と、それを実践し、幅広く普及していくための行動指針の策定を行った。
2020–2022年に修正デルファイ法を用いて日本におけるACPの定義・内容・対象者及び行動指針に関する項目を開発した。日本でACPの活動を行っている多職種の専門家をパネリストとして招聘した。医師(30名)、ヘルスケア及び生命倫理研究者(10名)、看護師(6名)、介護支援専門員(3名)、社会福祉士(3名)、法律専門家(3名)、チャプレン(1名)の56名で構成された。先行研究レビューと専門家へのインタビューによる草案作成(第1)、2回の項目適切性評価調査(第2及び4)と2回のテレビカンファレンス(第3及び5)、患者/患者家族とのディスカッション(第6)、最終合意形成(第7)の7つのラウンドを行った。コンセンサスレベルを「リッカート尺度(最低点1–最高点9)の7–9点の割合が70%以上」に設定した。
最終的に29項目がコンセンサスレベルに達した。ACPは、「必要に応じて信頼関係のある医療・ケアチーム等の支援を受けながら、本人が現在の健康状態や今後の生き方、さらには今後受けたい医療・ケアについて考え(将来の心づもりをして)、家族等と話し合うこと」と定義された。
本研究のプロセスの中で、個人の自律的な意思決定は周囲の親しい人々によって励まされ、支援されるという概念のもと、未来の心づもりを考えたり、親しい人に伝えたりすることをためらう人に対する配慮と支援が内包された。この定義及び行動指針は、日本だけでなく、家族中心の意思決定に価値をおく他の社会においてもACPをさらに広めていくために有用である可能性がある。